マイナス・カケル・マイナス -×-

シネマテークの自主フェスティバルのプログラムで観てきた作品。
世の中がマイナスにシフトする中、そのスパイラルに巻き込まれて行く孤独な個人。そんな個人の前を通り過ぎる人々は、ただ通り過ぎるだけなのであろうか。いや、通り過ぎる人も孤独を抱えた個人なのだ。

タクシー運転手の吉村(澤田俊輔)は客を乗せ大阪郊外の街を走る。ラジオからはアメリカがイラクに攻め入るニュースが流れるが、そんな遠い国の話しは何も関心がない。自分の幸せさえどうにもできないのだから。
休日も消費者金融の支払催促電話か宗教勧誘の訪問くらいしか出来事が無い。隣の部屋からはカップルのいちゃつく声。うっとうしい。

やるせない日常をこなす様に生きている吉村は、ただぼんやりと客を目的地まで運ぶ。
しかしある日、不思議な色気を持つ女 京子(長宗我部陽子)を乗せた。

目的地の団地に着くと京子はお金を取りに部屋に行くと言い、その部屋に行く事になった。経緯上、何故か二人でオセロをする事になってしまう。しかし、話すうちに京子は息子を亡くしてし、その現実を受け入れる事ができず現実と妄想が曖昧になってしまっている事に気付く。
そして、吉村の中に京子と二人っきりで部屋にいる非日常的な状況から黒い欲望が込み上げでくるのだが・・・。

両親の離婚が原因で、新学期から新しい中学に転校する事になった凛(寿美菜子)。住んでいた団地に父と荷物を取りに来た。
不安定で約束も平気で破ってしまうような凛に対して、親友の智美(大島正華)は、何かと心配をしている。

荷物を運んだ後、凛は、母親と食事をする。しかし、母は付き合っている男を連れて来た。あまりの突然の事に店を飛び出してしまう。
智美に公園に来てもらうのであるが「離婚した母親が誰と付き合おうと、それは母親の自由」という智美の忠告に凛は傷付いてしまい仲違いになってしまう・・・。

過去にこだわりを持ってしまい前に進む事ができない登場人物たち。そんな人たちに近しい他人は何もできないのであろうか。「前に進めない」それは、閉塞した日本の今の空気をあらわしているともいえるが、未来に対して世の中の仕組みが行き詰まりを見せている事をしみじみ感じさせる。
しかし、本作品は、そんな孤独な個人に対して最後は温かみを感じさせる。

今年は色んな事があった。大きな地震災害があり原子力発電所の放射能汚染も未だに治まっていない。また、震災から「復興」という言葉が言われているが、(それは震災が原因というより労働力が問題なんだけれど)日本経済が果たして過去のように世界をリードできる存在になれるかどうかわからない。もう過去のように経済の成長のために何か犠牲を払おうとは誰も思っていない。
そんな時代に「絆」というキーワードが訴えられるようになっているけれど、それはアピールするものでは無く自然に発生するものではなかろうか。

目の前に起こる身近な何かに関わる事に小さな勇気と光を感じさせる作品である。

ただ、作品の流れは、さり気なく押し付けがましく無い分、少しマッタリとながれるので、多少眠気を誘ってしまう部分があるのと、日にちと登場人物の関係性をオムニバスとして結び付けているので、混乱してしまう部分があると思う。
しかし、無関係に見える小さな物語をそれぞれを繋げている構成は面白い試みで、随分苦労したのではなかろうかなと思い、その辺りの挑戦的な構成は評価できると思う。

また、凛役の寿美菜子は、大人気アニメ「けいおん!」(琴吹紬役)や声優ユニット「スフィア」のメンバー。劇場には、なんかそういったファンも来ていた様な気もする。

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