インスタント沼

「亀は意外と速く泳ぐ」や「転々」などの三木聡監督の作品です。
「脱力系、癒し系」と言われる三木監督の作品であるが、本当の魅力は、ナンセンスギャグとコミカルなストーリーの背景に温もりの視線が感じられるからだと思う。

出版社に勤めている沈丁花ハナメ(麻生久美子)は、自分の人生がジリ貧だと思っている。
編集長をしている雑誌「HATENA」は、人気が無く返品の山・・・。

この雑誌が成功したらファッション誌の編集長になって、好きだった元同僚のカメラマン氏家(堀部圭亮)がいるミラノに行きたいと思っているのであるが、上手く行かない。
起死回生のテコ入れのために心霊スポット特集をすることになるが、スタッフが怖がって上手くいかず雑誌は、休刊になってしまう。

自分が「ジリ貧」になってしまったのは、ある出来事が理由だと思っている。

それは、両親が離婚した8歳の誕生日。父が家を出て行くときに母親 翠(松坂慶子)があまりにも大人しいので腹が立ち、父からもらった物を全部、近所の沼に捨ててしまった。
その時、最後に捨てた黒招き猫の祟りで、自分が人生ジリ貧になってしまったと勝手に思い込んでいるのであった。

結局、ハナメは出版社を辞めてしまい、ジリ貧になった理由の黒招き猫を探そうと、すでに埋め立てされた沼を掘ってみるが、見つからない。

そんな時、母親が河童を取ろうとして池で溺れて、意識不明になってしまう。

さらに、その池から昔に盗まれた郵便ポストが見つかり、その中の手紙の山から母親が投函した手紙が見つかる。

なんと、そこには、自分の実の父親がどこか別の所にいるという内容だった。

突然、自分の出生の秘密を知ってしまったハナメは、あて先の場所に尋ねて本当の父親に会ってみようと思う。
「実の父親が母親に話しかければ、意識が戻るかもしれない」という思いと、「ひょっとしたら大富豪の父親かもしれない」という、勝手な妄想を抱き、その住所へ向かうのであるが・・・そこは「電球商会」という薄汚い非常に微妙な骨董品屋だった。

そして、その骨董品屋の主、沈丁花ノブロウ(風間杜夫)がハナメが探していた相手だった。しかし、その惚けた様な挙動と、思い付きで行動する性格は、ハナメに近いものがあった。
さらに、近所のパンクロッカーの電気屋 ガス(加瀬亮)が現れ、ハナメとノブロウの顔が似ていると言い出す。

そんな事があり、ハナメは電球屋に出入りするようになるのであるが、ある時、一人の美しい客 飯山和歌子(相田翔子)が現れる。

彼女は、将来結婚する相手の写真が出るという、20年前にあったツタンカーメンの占いマシーンを探しているという。
中学生の頃、近所で、その占いマシーンを見つけ占ったのであるが、写真を見るのが怖くて食べてしまい、それ以来トラウマになってしまい、未だに結婚ができないと言う。

ハナメは、ライターの市ノ瀬(ふせえり)の手を借りて、輸入元を調べるのであるが・・・。
と、果たして「インスタント沼」というタイトルがどうやってストーリーと結びつくかが、予想つかない流れで物語が進んでいきます。笑

この作品で感じたのは、はじめにも書いたように、三木監督の作品の根底には、「温かい視線」が感じられると思う。
例えば、主人公の「世の中のほとんどの事は、たいした事が無い」というセリフがあるのであるが、実際の世の中は、あらゆる事を抱えて、もがいているのが現実ではないかと思う。

しかし、ハナメがトラウマで抱いている「黒招き猫の祟り」も他人から見ると滑稽なほど、「たいした事ではない」。
つまり、自分が思っている「世の中のほとんどのことはたいした事が無い」のである。

その他にも、「一晩寝ればたいていの事は忘れる」、「幸せの入り口は、水道の蛇口をひねる。しょーも無い日常を洗い流す。」という、一見ナンセンスなセリフが出てくるのであるが、結局、自分の中の小さなわだかまりや、気になっていることは、自分自身で何とかなるものだ。というメッセージの様な気がします。

不器用だったり、常識の理屈に合わなかったりして、それが、自分は運が悪いと嘆いてしまう、人間の性と言うか悲しさ・・・それを温かい目線で、コミカルにメッセージを発信して描いている作風が、他の映画を寄せ付けない三木作品の最大の強さではないかと思います。

おすすめ度